人間の心臓を食べ、性と愛欲をつかさどる夜叉 (鬼神)・荼吉尼。
一方で、豊穣の女神という側面も持っており、天女として扱われることもあります。
今回は、荼吉尼のご紹介です。人間を食らう恐ろしい夜叉か、人間に豊穣を与える天女か、その本性は何なのでしょうか?
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夜叉か、豊穣の女神か? インドの魔女「荼吉尼(ダーキニー)」
荼吉尼とは、仏教における神、荼吉尼天。夜叉 (鬼神) の一種。日本では稲荷信仰と混同され、狐の精霊とされました。
その荼吉尼の起源は、古代インドのダーキニーであり、衣服を何も身に着けない裸身で、人肉を食らう魔女でした。
ダーキニーは、本来はヒンドゥー教もしくはインドのパラマウ地方 (ベンガル地方の南西部) の土着信仰の女神であり、ヒンドゥー教では血と殺戮の女神・カーリーの眷属で豊穣の女神だったといわれています。
その後、性や愛欲をつかさどる女神とされ、やがて凶暴で人肉を食らう魔女、といった側面が付け足されていきました。これが仏教に取り入れられ、夜叉や羅刹女 (人間を惑わす魔物のようなもの) に分類されるようになります。
8世紀ごろに書かれた『大日経疏』で、大日如来が大黒天に変身してダーキニーを調伏したという説話があります。
大黒天は荼吉尼を降三世の法門によって降伏し,仏道に帰依させたと伝えられています。
ダーキニーは生きた人間の肉を食べることを禁止された代わりに、自由自在の通力を有し、人間の死を半年前に予知する能力を与えられました。
そして人が死んで、その死の直後の心臓を取って食らうことを許されました。人間の心臓には「人黄」という生命力の源があり、それが荼枳尼の呪力の元となっていたのです。
人々は、その神通力を得るためにダーキニーを信仰したといいます。
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やがて、ダーキニーから荼吉尼へと名前を変え、空海が日本に仏教を伝えると、日本の稲荷神と習合されるようになります。
その理由は正確には分かっていませんが、狐が死体を食べることや人間の死を予知することができたり、精気を奪う動物と考えられていたため、その共通点の多さから稲荷神と混同されるようになったといわれています。
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密教においては荼吉尼は閻魔天の眷属の女鬼。荼吉尼(だきに)は妖狐野干の化身であると解釈されます。そして野干=狐にまたがる姿の荼枳尼天となり、ダーキニーの本来の神格である豊穣神という側面と合わさって、豊饒や福徳をもたらすと神様として崇められるようになります。
荼吉尼天は現代でも日本各地の多くの神社仏閣で祀られています。
そのご利益は
- 五穀豊穣
- 大願成就
- 商売繁盛
- 技芸上達
- 厄除開運
- 家内安全
など。
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仏教の荼吉尼天の側面がピックアップされがち、荼吉尼(ダーキニー)
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漫画『鬼灯の冷徹』では、美女として登場。人間の死期を正確に当てられる能力を主人公・鬼灯に買われ、閻魔庁のお迎え課に就職します。その美貌から多くの獄卒がお迎え課に集まり、部署の人気者になります。
漫画『荼吉尼 -ダキニ-』では、主人公の変化した姿として登場しています。
悪夢に悩まされる主人公が夢の中である青年に「荼吉尼」と呼びかけられたことによって、人間の死を予知する荼吉尼の能力を得て、問題を解決していく作品です。
荼吉尼(ダーキニー) まとめ
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夜叉か天女か、対照的な側面を持つ荼吉尼ですが、もしかしたら本質的にはそう変わらない存在なのかもしれません。
人間が「どのような女神であってほしい」と解釈するかによって、荼吉尼は恐ろしい女神にも、慈愛をもたらす女神にもなりえるのでは。