海坊主は日本全国の海に出没する妖怪。
船を破壊する、不漁にする、嵐を呼ぶ、人を海に引きずり込むなど、様々な怖い言い伝えが残されています。
その正体も遭難者の亡霊、妖怪化した海獣、海神など、しっかり怖い。
海で遊ぶ機会が増える夏には要注意な存在です💦
目次
海坊主、様々に伝えられる海の妖怪
海坊主とは
海坊主(うみぼうず)は「海法師(うみほうし)」「海入道(うみにゅうどう)」とも呼ばれる海の妖怪。
夜、巨大な黒い坊主頭の姿で出現し、船を破壊するとされます。
その姿を見ると「不漁になる」ともいわれ、特に海の民の間で恐れられる存在。
江戸時代中期の『斎諧俗談』や後期の『甲子夜話』など、様々な随筆に多くの事例が記録されています
海坊主の外見・正体
海坊主は伝承によって様々に伝えられる妖怪です。
大きさは数メートルから数十メートル。
大入道の姿で現れ,見上げるようにするとますます大きくなり、見下すようにすると消えるとも伝えられています。
外見
外見についても様々な伝承があります
- 実体がない影
- 風船のような姿
- ぬるぬるとした体を擦り付けてくる
- 体はスッポンで人間の顔、頭髪がない坊主頭
- 上半身を海上に現して立っている
- 美しい女に化ける
- 裸の大坊主
などなど
正体
その正体については、海の民の間では、
無縁仏への信仰とつながっている。「海神が、信仰が衰え恐ろしさが強調されて妖怪化した」とも考えられています。
その他
- 船幽霊
- 魚や海獣が妖怪化されたもの
- 海で遭難した者の亡霊
など、様々に伝えられています。
また、
- トドやイルカなどの大きな魚大波や入道雲などの、自然現象の誤認や錯覚によって生まれたものとも認識されています
習性
海坊主は、年の夜や盆、しけのときなどに現れることが多いといわれます。
- 東北地方では漁で最初に採れた魚を海の神に捧げるという風習があり、これを破ると海坊主が船を壊し、船主をさらって行くと伝えられています。
また、
- 柄杓(ひしゃく)を貸せと船に近づき,それで海水を船にくみ込んで沈める。
- 海坊主が現れると天候が荒れ始めるといわれ、船が沈むとされる場合もあるとか。
ちなみに、柄杓を貸せと近づいた有無坊主の対処としては、穴の空いた柄杓を与えるとされています。
- 愛媛県越智郡大島では河童のように相撲を挑んでくる海坊主が伝えられています。
その他
- 裸体の坊主のような何者かが群れをなして船を襲う
- 船体や櫓に抱きついたり、篝火を消す
- 「ヤアヤア」と声をあげて泳ぎ、櫓で殴ると「アイタタ」と悲鳴をあげる
などの伝承があります。
弱点は
煙草の煙。出会ってしまったら煙を吹きかければ嫌がって消えるという伝承があります。
文献の中の海坊主
海坊主は江戸時代の多くの文献の中にその存在が記されています。
🔳 『斉諧俗談(せいかいぞくだん)』(江戸時代中期、大朏東華の随筆)
西方の大洋に現れる、スッポンのような姿、坊主頭で人の顔をした巨大な怪物。
大きなものは5、6尺(約1.5~1.8メートル)あるとされ、漁師がこれに会うとその日は不漁になる。
つかまえて殺そうとすると、涙を流して救いを求めるようにみえるといいます。
🔳 『閑窓自語』(江戸時代後期の随筆)
和泉貝塚(大阪府貝塚市)に海坊主が3日間、陸に上がったと記されています。
その間、子供は家に隠れていたということです。
🔳 『雨窓閑話』(江戸時代末期の随筆)
桑名(三重県)では月の末には海坊主が現れるといわれ、船出は控えられていました。
けれどある船乗りが海に出たところ、海坊主が現れ「俺は恐ろしいか」と問いかけ、船乗りが「世を渡ることほど恐ろしいことはない」と答えたところ海坊主は消えたといいます。
🔳 『奇異雑談集』(江戸時代の説話・奇談集)
- ここでは「黒入道」という海坊主が記述されています。
その海坊主は竜神の零落した姿で、生贄を求めるといいます。
- 伊勢国(三重県)で船に女性を乗せることを断っていた船に、善珍という者が妻を強引に乗船させます。
船は大嵐に遭遇、船主は女を乗せたために竜神の怒りに触れたと怒り、やがて黒入道が現れます。
善珍の妻は海に身を投げ、黒入道はその妻をくわえて消えてゆき、嵐も去ってゆきました。
🔳 『奇異雑談集』(江戸時代初期の怪談集)
ここにも「黒入道」の存在が記されています。
その黒入道は人の5〜6倍ほどの大きさの坊主頭で、鋭い眼光、鳥のように長いクチバシ、その大きさは2尺(約60センチメートル)ほどもあると記されています。
🔳 『本朝語園』(江戸時代の故事・逸話・奇談集)
- ここでの海坊主は船入道(ふねにゅうどう)として記されています。
体長2メートルほどののっぺらぼうの怪物。
もし、出会ってしまったら、見なかったふりをしてやり過ごさなければなりません。
「あれは何だ」とでも言おうものなら、たちまち船を沈められてしまいます。
- 淡路島の由良町(洲本市)では、もし出会ってしまったら、最も大切なものを海に投げ込むと助かるといわれています。
🔳 『天地或問珍(てんちわくもんちん)』(江戸時代の自然現象や怪異的現象の解読書)
ここでは海小僧という妖怪について記されています。
海上を歩く、俊足の小児。
竜宮人とされ、これに出会うと大風が吹くといいます。
伝承の中の海坊主
🔳 鳥取県
鳥取県の伝承は江戸時代の『因幡怪談集』にもその存在が記されています。
ある日、宮相撲で無敗を誇る米子町の隣村の男が、海辺で沖から波に乗ってやってきた棒杭のような体格の単眼の怪物と出会います。
怪物と男は格闘となり、腕自慢の男は怪物を投げ飛ばします。
けれど、怪物はいくら投げてもへこたれず、ぬるぬるして捕らえどころがない。
押せばたわたわと倒れ、放せばべたべたともたれかかってきます。
男はやっとの思いでその得体の知れない怪物を倒し、着ていた着物の帯で怪物をくくり、家の庭の木に括り付けます。
翌朝、集まった村人たちにも怪物の正体はわかりません。
けれど、その中の老人が
「海坊主ではないか?
ぬるぬるした体で、人にもたれかかり、さわるとかゆくなる。
海辺でたまに出くわす、と昔聞いたことがある」と話したということです。
🔳 千葉県
千葉県では幽霊船の姿をした海坊主が語り継がれています。
- ある漁師が、どこまでも漁師の船を追ってきて離れない幽霊船と遭遇。
それが海坊主だと気付いた年寄りの漁師が、海面を竿で叩いて追い払ったと伝えられています。
- 和田の沖では、漁師が巨大な海坊主と遭遇しています。
海坊主は「怖くはねえか」と漁師に問いかけてきます。
漁師は怖いと言えば何をされるか分からないので「怖くねえ」と答えます。「ではお前は何が怖いのか」と海坊主。
「板子一枚下は地獄だ。俺らの稼業ほど怖いもんはねえ」と漁師が答えると、海坊主は「そうか」と納得して海中に去ったということです。
- 南房総市では、船に海水を注いだり、岩場に誘い込み、船を沈めようとする海坊主が伝承されています。
その他の伝承
🔳 長野県
長野県では川に住む海坊主が伝承されています。
その海坊主は巨大で、黒く、大仏のような頭。中野の替佐付近の川に住み、上半身だけを水上に出すと伝えられています。
🔳 宮城県
気仙沼大島では美女に化けた海坊主が人間と泳ぎを競ったという伝承があります。
また、岩手県にも美女に化けた海坊主が伝えられていますが、こちらは誘いに乗って泳ぎを競おうとすると飲み込まれてしまいます。
🔳 愛媛県
宇和島市では海坊主を見ると長寿になるという伝承があります。
🔳 和歌山県
明治時代、三井寺に大猿のような海坊主が出現。
「茶色い体毛、ワニの口、腹は魚、尾はエビ、牛のような鳴き声をしていた」と当時の『都新聞』に掲載されました。
海坊主、現代でもまんま海の妖怪
『妖怪ウォッチ』の海坊主は海の化身。
だいだらぼっちの色違い、ゲームではゴーケツ族のSランク妖怪として登場しています。
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『忍者戦隊カクレンジャー』の海坊主は妖怪軍団のウミボウズとして登場。
妖怪大魔王復活の為に純真な子ども達15人を石に変えてしまいました。
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『ゲゲゲの鬼太郎』の海坊主は巨大で黒い蛸のような頭が特徴。
全国各地の海で伝承通りに出没しています。
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海坊主 まとめ
霊と遭遇した時には怖がってはいけないということを聞きました。
海坊主もまた、怖がったら襲ってきそうな妖怪、なようで。
まあ、自慢ではないですが、
私は沖にまで泳ぐなんてことはできないので、出会うことはないとは思いますが。。。