「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり」「平家物語」の有名な冒頭です。
平家物語とは「奢れるものも衰退してはかない」ことの琵琶法師の弾き語りで伝えられる物語。
戦に負けた平家は「落武者」「平家の落人」として難を逃れ、今も伝説となって全国に存在し、語り継がれています。
今回はその「落人」「落武者」について探索してみたいと思います。
目次
落武者・落人伝説とは
かつて武士によって日本の政治が統率された時代、武家同士が勢力争いのために戦い、その勝敗を決し、敗れた者の大半は戦死。
けれど長い歴史の中、戦場を逃れ、落ち延びた者も多く存在しました。
彼らは「落武者」「落人」として様々に日本各地で語り継がれています。
落武者とは
戦乱を逃れ、敗者として生き延びた武士をいいます。
けれど、室町時代では、後ろ盾が無くなった没落貴族、何らかの理由で流刑され罪人となった公家や武家も落武者として扱われていました。
落人(おちゅうど)とは
武士は落武者ですが、落ちのびたものの中には家族や平家に味方した縁者なども含まれます。それらの人々は「落人(おちゅうど)」といわれています。
また、主家が敗北したために亡命状態になった武家の一党やその臣下も落人と呼ばれます
平家の落人
俗にいう「源平の戦い」治承・寿永の乱(じしょう・じゅえいのらん)は、平安時代末期治承4年(1180年)〜元暦2年(1185年)にかけての6年間にわたる内乱をいいます。
最終的な決戦の地「壇ノ浦の戦い」で平家は敗れ、平氏の武将達と共に幼い安徳天皇の手を取った二位尼も三種の神器をたずさえて入水、平氏は滅亡したと伝えられています。
けれど、その中でも落ち延びたものがいます。
そして、安徳天皇もじつは生き延び、隠れ里に難を逃れたという伝説は全国各地に残されています。
隠れ里
平家の残党は大抵の場合、人が近づかないような場所に里を築きました。
山奥くや離れ島、孤島など、隠れ里とは一種の仙郷。
猟師が深い森の中で道に迷い偶然たどり着いた別天地であったり、静かな山の中からかすかに機織の音が聞こえる、川上から食器が流れてきたなどの逸話が残っています。
落ち武者狩り
その地域に暮らす百姓が自衛の為、落ち武者を襲い、刀や金品、鎧などを略奪して落武者を殺すという暴挙が起こりました。
戦国時代、百姓は自分の村の自衛のため、落武者を探して金品を略奪、殺害するという行動を起こします。
戦国時代には、百姓でも名字を持ち帯刀する「おとな百姓」と、名も武器も持たない「子百姓」の階級に分かれます。
そして「おとな百姓」は雑兵として戦争へ参軍し、農業は「子百姓」が行うようになりました。
有名な例として、織田信長を「本能寺の変」で討ち取った明智光秀も羽柴秀吉の軍に敗北。光秀は落ち武者狩りの百姓に竹槍で刺され、深手を負ったため自害、あるいは殺害されたと伝えられています。
十三塚
日本の各地に存在します。その多くは落武者などの戦死者の供養のために造られたもの。
そのほか、埋蔵金の隠し場所、怨霊や無縁仏の供養塚、異界との境界を鎮護する為のものであるといわれています。
今も残る落ち武者の各地の隠れ里
福岡県 二丈満吉唐原(とうばる)
平清盛の嫡男(ちゃくなん・長男)平重盛の内室と二人の姫「千姫」「福姫」、侍女や家臣と共にこの地に落ち延びています。
けれど後に源氏の刺客によって2人の姫は殺害。内室は自害します。
唐原には、落人が京都を懐かしんで上った「都見石」(みやこみいし)や重盛の遺髪を納めた「黒髪塚」などが残ります。
高知県四万十市JR予土線半家(はげ)駅
半家(はげ)とはこの地に住み着いた平家の落人を指すもの。「平」の字を「半」にしたのが地名の由来と言われています。
この地方、高知県・愛媛県・徳島県の山地一帯は「屋島からの落武者が分隠棲した」との言い伝えがあり、隠れ里が点在した地とされています。
愛媛県四国中央市 切山
「源平の戦い」の最中、平清国、平清房、平清行、平清重、紀州熊野神社修験者の五士とその一族が、幼い安徳帝を守護し、辿り着いたと言い伝えられています。
切山には現在も多くの平家にまつわる遺跡が残されています。
栃木県日光市湯西川温泉
平重盛の六男・忠房の息子らが落ち延びたとされる落武者の隠れ里。
苗字を「平の人」ということを意味しする「伴」として隠れ住んでいます。
現在も「伴」という苗字の平家の子孫がこの土地に残り、毎年6月には平家大祭も開かれています。
妖怪・魔物と化した? 落武者のたたり
アニメ「虚構推理」の落武者は日常のそこかしこに確かに潜んでいる“妖怪”、“あやかし”、“怪異”、“魔”などと呼ばれる存在
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落武者のたたりでまずあがるのが映画「八つ墓村」。横溝正史原作1977年制作、石坂浩二主演の金田一耕助シリーズの中の一作。平家の隠れ里「八つ墓村」で起こる殺人事件の根底にあったのが落ち武者のたたりというもの。当時の大ヒット作のひとつです。
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「耳なし芳一」は平家物語を語る琵琶法師に起こる体験談。平氏の怨霊をモチーフにした小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の怪談。
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落武者・落人 まとめ
落武者と聞くだけで、残忍なシーンが連想されます。日本に限らず歴史の中には栄光があるだけ、敗者がたどる血生臭い争いの影が残ります。
それでも隠れ里、仙郷として独自の文化や時間の流れで新しい世界に溶け込んでいった落人には拍手を送りたいと思います。