ブレスはアイルランドを最初に統治したダーナ神族の王。
片腕となったヌアザに変わってダーナ神族の王となり、悪政を行なったため、太陽神ルーに毒殺されたと伝えられる美しき半神半魔です。
アイルランドの神々、隻腕のヌアザ、太陽神・ルー、魔眼の死の神・バロルや、神族トゥアハ・デ・ダナーンと魔族フォモール族との勢力闘争とも深い関わりを持つ、ケルト神話の最高神の一柱。
暴君として失脚したブレス、その生涯に注目です。
ブレス、圧政のために失脚したダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)の王

ジョン・ダンカン作『妖精たちのライダー』(1911年)
ブレスとは
ブレス(Bres)はエリン(アイルランド)を最初に統治したトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)の美しき王。
父は巨人族フォモール族の王エラサ、
母はトゥアハ・デ・ダナーン(ダーナ神族)のデルベーフの娘エリ。
巨人族(闇の魔族)と神族の血を受け継ぐ半神半魔です。
その名前の意味は美しきもの。
ブレス王の本来の名前はエオフ(Eochu)ですが、父が「アイルランドのすべての美しいものが「ブレスのように」と表現されるようになるだろうと予言.
それによって『ブレス(美しいもの)』と呼ばれるようになったと伝えられています。
ダーナ神族の王・ブレス
ブレスはトゥアハ・デ・ダナーンの王として、マートゥーレスの戦いで片腕を失ったヌアザにかわり、エリンの初代の王となります。
王になった後、父方のフォモール族に有利な政治、トゥアハ・デ・ダナーンの慣習に背く悪政を行い、在位7年で王位を追われることになります。
悪しき王ブレス、その生涯

ジョン・ダンカン作 1912年「フォモール族」
フォーモール族とダーナ神族(トゥアハ・デ・ダナーン)
フォモール族の長は「魔眼のバロル」。
バロルの単眼は恐ろしい殺傷能力の魔眼。
一度その目が開かれると、発する魔光は多くの軍勢を一瞬のうちに殺してしまいます。
ダーナ神族の長は高潔なヌアザ王。
美しく強く、公平な治世を行う、民から慕われる王です。
この二つの民族は対照的な存在として言い伝えられています。
フォモール族はアイルランドの闇の象徴。
そして美しく強いダーナ神族は、それに対する光を象徴していると考えられます。
ヌアザの失脚
ダーナ神族が来る以前、アイルランドにはフィル・ヴォルグという一族がいました。
優れた知恵や技術を持つダーナ神族の侵略に抵抗し、戦いが始まります。
ダーナ神族はフィルボルグと戦うために、同じく以前からアイルランドにいるフォモール族と同盟を結び応戦、「第一次マグ・トゥレドの戦い」と呼ばれる戦いに勝利します。
けれどその戦いの中、ヌアザは片腕を失うことになります。
ブレス王の誕生、その悪政
ダーナ神族の下で育てられたブレスは、「第一次マグ・トゥレドの戦い」で片腕を切り落とされたヌアザに代わって王となり、ダグザの娘ブリギッドを妻とします。
しかし彼は義父であるダグザに城砦を築かせ、オグマに過酷な労働を強います。
民に苛烈な税を課し、国中の牛から牛乳をすべて取り上げます。
国を訪れた詩人も冷遇したため、詩人コープルによってアイルランドで最初の風刺詩の題材にされます。
ブレスは王に値しないという悪評は、この詩によって広まります。
軍記『マグ・トゥレドの戦い』には、そのときからブレスには「疫病(神)が憑いてしまった」とあります。
ヌアザ王の復権

ジョン・ダンカン作『妖精たちのライダー』
そのころ、王位を退いたヌアザの元に銀の腕をヌアダに着けた医者の息子キアンが訪れます。
彼はヌアダに「切り落とされた腕の再生」を申し出ます。
そして、キアンは長い間土に埋められていた腕をヌアザの肩にそえると、「筋は筋に、神経は神経につながれ!」と呪文を唱えます。
すると、腕は再生し、ヌアザは元の身体に戻ります。
これによってヌアザはブレスに退位を要求、ブレスは7年間の猶予を乞い、7年後ヌアザは王座に返り咲きます。
ブレスの抵抗、そしてルーの出現
暴君ブレスはダーナ神族を追放。
ブレスは父フォモール族のエラッハを頼り、フォモール族の長バロールの後ろ盾を得て、王座を取り戻すための大軍勢を率いてダーナ神族に戦いを挑みます。
ヌアザは再び剣を取って戦いますが、フォモール族の力は強大でした。
この戦いでフォモール族は勝利。
ダーナ神族はフォモール族の支配下で圧政に苦しむことになります。
けれど、ある時ヌアザ王のもとに一人の若者が現れます。
彼はヌアザの腕の治療をした医師ディアン・ケヒトの息子キアンと、魔眼のバロールの娘エスリンとの間に産まれた、半神半魔の太陽神ルー。
第二次マグ・トゥレドの戦いで、ブレスと同種の混血の神ルーによってフォモール族の王バロールが討ち取られ、ブレスたちは敗北を喫することになります。
ブレスの最期
これ以降のブレスの運命は稿本によって異なります。
古い軍記ではブレスはルーに命乞いをし、その代償として魔法の家畜と農耕の技術を伝授。
この技術はこの時ダーナ神族に伝えられたものとされています。
他の稿本『アイルランド来寇の書』では、ルーはブレスを魔法(ドルイドの術)で殺したと記されています。
他説、『ディンシェンハス』(初期アイルランド文学における地名テキストの一種)によれば、ブレスに牛乳を納税させられたマンスターの王ネフタンは、木製の偽牛をつくり、汚水を牛乳にみせかけ、ブレスに飲ませたとしています。
ゲシュの戒めにより、ブレスはこれを拒絶できず、300杯を飲んで失命したとされます。
ブレス王の栄光と失脚を生んだ『マグ・トゥレドの戦い』

スティーブン・リード作「フィル・ボルグ族とトゥアト・デ族」
『第一次マグ・トゥレドの戦い』ないし『マグ・トゥレド・コンガの戦い』
ここではトゥアハ・デー・ダナンとフィル・ヴォルグの戦い、片腕になったヌアザの失脚とブレスが王位に即位するまでを語っています。
この大戦でヌアザと対したフィル・ヴォルグの英雄スレンは、ヌアザの右腕を切断。
医神ディアン・ケヒトは、ヌアザのために銀の義腕を施し、これよりヌアザは「銀の腕のヌアザ」と呼ばれるようになります。
けれどダーナ神族の長ダグザの娘にして豊穣の女神・ブリギッドが、「トゥアハ・デー・ダナンは欠点なきものでなければ治めることはできない」と宣言。
腕を失ったヌアザの代わりとしてブレスが選ばれ、ダーナ神族の王に即位します。
「マグ・トゥレド最後の戦い」「北マグ・トゥレドの戦い」
王となったブレスは、自らの血縁、因縁もあってダーナ神族を抑圧。
礼や徳を欠いた所業のため、王に相応しくないという悪評によって弾劾され、失脚。
腕を取り戻したヌアザが復位することになります。
ブレスは王位を取り返すためにフォモールに助けを求め、邪眼のバロールの助力を得て、大軍勢をもってダーナ神族に戦いを挑みます。
そのころ、ダーナ神族の父とフォモール族の母を持つルーがヌアザの前に現れます。
この戦争でヌアザはバロールに倒されますが、そのバロールの孫であるルーが、スリング(武器・投石器(とうせきき))でバロールを討伐。
ダーナ神族を勝利へ導きます。
ブレス まとめ
出典:deviantart
持ったことがないのであくまで推測の域ですが、
権力とはそれを手に入れたものを傲慢にする罪深い力なのだろうと思います。
何もかもが思いのままになる環境で、謙虚でいることの方がシンドイだろうし、不自然でもある。
たとえ名君と謳われる高潔な者でも影はあるのだろうと思うし、万人に慕われるなんてこと自体が虚構であると思う。
むしろ、他人にどう思われようが我が道を通すようなヤンチャな方が親しみが持てる場合もあると思います。
ブレス王がそういう王であったかどうかはわかりませんが。。


