悪魔くんが唱える「エロイムエッサエム」は実際の『大奥義書』という悪魔書で記されている召喚呪文。
それら中世のヨーロッパで生まれた魔術書はグリモワールと総称されます。
日本人には馴染みの薄いグリモワールですが、悪魔を召喚し使役したソロモン王以外にも、モーセやアダム、ノア、ブゥドゥー教なども関係しているとか。
悪魔や天使を召喚することを主な目的としたグリモワール。
その中には富や権力、恋を成就させる以外にも、様々な目的の魔術とその使用法が記されています。
目次
- 1 グリモワール、古代〜中世の魔術書
- 1.1 グリモワールとは
- 1.2 主なグリモワール
- 1.2.0.1 ⚫️『ソロモンの遺訓』(Testament of Solomon)
- 1.2.0.2 ⚫️『アルス・ノトリア』(Ars Notoria、「名高き術」またはArs Notaria、「書記の術」)
- 1.2.0.3 ⚫️『ピカトリクス』(Picatrix)
- 1.2.0.4 ⚫️天使ラジエルの書(Sefer Raziel HaMalakh/ספר רזיאל המלאך)
- 1.2.0.5 ⚫️『ホノリウスの誓いの書』(The Sworn Book of Honorius)
- 1.2.0.6 ⚫️ソロモンの大いなる鍵(The Keyof Solomon the King)
- 1.2.0.7 ⚫️レメゲトン(Lemegeton)「ソロモンの小さき鍵」
- 1.2.0.8 ⚫️『アブラメリンの書』(The Book of Abramelin)
- 1.2.0.9 ⚫️大奥義書(Grand Grimoire)
- 1.2.0.10 ⚫️モーセ第六・第七の書(The Sixth and seventh Book of Moses)
- 1.2.0.11 ⚫️『ガルドラボーク』(Galdrabok)
- 2 グリモワール、現代でも悪魔を召喚する、武具・アビリティになる、優れた魔術書
- 3 グリモワール まとめ
グリモワール、古代〜中世の魔術書
グリモワールとは
グリモワール(grimoire)は15世紀末~19世紀頃にヨーロッパで流布した魔術書の総称。
グリモワ、グリモアとも表記され、日本語では魔導書、呪術書とも訳されます。
その内容の多くは悪魔や天使の召喚法に関するものとされます。
ソロモン王やモーセ、古代ギリシアの天文学者・アポロニウスのような偉人を作者とするものも残され、多くの場合、本自体に魔法の力が吹き込まれていると信じられています。
現在残されている写本の多くは17~18世紀以降のものとされ、原典が残存するものはほとんど無く、現存する写本も多くは断章の形で残されています。
これは教会の弾圧から逃れるためのものとされます。
語源
グリモワール(grimoire)の語源はフランス語の呪文、古フランス語の「文字」、「魔術」などの説もありますが、「文法」を意味するフランス語の grammaire から派生したとの説が有力視されています。
中世フランスではgrammaire はラテン語で書かれた書物を意味していました。
当時、ラテン語は聖職者などの限られた人だけが読める難解なものでした。
そのため、一般の人々に「文法」と「魔法」が混同されていったものと推測されています、
内容
グリモワールの主な内容は、霊的な存在の力を利用する「神霊魔術」や「降霊術」に関するものが多く、儀式の作法、呪文、護符、呪具の作成法、召喚法など。
それ以外にも、薬草の知識や調合、占星術、悪魔の一覧など、多岐にわたる内容が記述されています。
悪魔学、魔術や呪術などに関する知識、奥義を記した古文書、ユダヤ神秘主義(カバラ)に関する内容。
目的に必要な悪魔や精霊、天使など召喚するための魔法円や図形やシジル(占星術のゾディアック・サイン)なども紹介されています。
エロイムエッサイム
日本でも水木しげるの「悪魔くん」が唱える「エロイムエッサイム 我は求め訴えたり」(Eloim, Essaim, frugativi et appellavi)。
これは1522年の写本を元に編纂された魔術書『大奥義書』の『黒い雌鶏』を使った召喚儀式で使用される呪文とされています。
この魔術書は悪魔や精霊などの特徴やそれらを使役する方法が記されたもの。
起源
最古のグリモワールは紀元前5世紀〜4世紀、古代メソポタミア(イラク)ウルク市から発掘された楔形文字の粘土板に刻まれた魔法の呪文とされます。
古代ギリシャ・ローマでは、グリモワールはペルシャ人によって作られたと考られていました。
古代エジプト人もヘカ(魔法、あるいは魔法を擬人化した神)を信仰し、タリスマン(お守り)や武具などにも呪文が刻まれていたとされます。
グリモワールに関わる偉人・賢人、宗教
モーセと魔術
古代ユダヤ人は魔術に精通していた民族とされ、彼らはエジプトで魔術を学んだモーセからその知識を与えられたとされます。
ユダヤ人にとってモーセは神(あるいは天使)を召喚し、悪魔を鎮める方法を説明した人物と認識されていました。
ソロモン王とグリモワール
イスラエルのソロモンは、ヤハウェの命を受けた大天使ミカエルより授けられた指輪を所有し、古代世界の魔法や呪術を操り、72柱の悪魔を使役した王として知られています。
キリスト教とグリモワール
初期、キリスト教の一部の宗派ではグリモワールが使用されていました。
旧約聖書のひとつ、エノク書の中でも、占星術と天使について記述され、エノクとその曾孫ノアは天使から魔法の本を与えられています。
けれど、ローマ帝国の時代に至って、キリスト教はグリモワールを異端として嫌悪します。
新約聖書には、司祭・スケワの7人の息子の悪魔祓いの失敗で、改宗者が魔術書や異教書を焼き捨てることを決意したことが記されています。
グリモワールの歴史
誕生
12-13世紀のヨーロッパでは、多くのアラビア語の書物がラテン語に翻訳されました。
- 『ガーヤト・アル=ハキーム』 中世アラビア魔術の集成。それまでの魔術と占星術を総説した書物
- 『秘中の秘』 偽アリストテレスによる中世ユダヤの魔術書
- 『天使ラジエルの書』 防護呪文、魔術的なタリスマンの作成方法などが記されています。
これらの占星術や魔術の知識がヨーロッパのキリスト教徒によって、キリスト教的な解釈を踏まえたグリモワールとして誕生しています。
中世
15世紀前後の中世には、キリスト教、ユダヤ教、イスラム教において、宗教的な信仰に関係するものと魔術に関するものに大別され、グリモワールは浸透してゆきます。
当時、詩人ウェルギリウス、天文学者プトレマイオス、哲学者アリストテレスなどの古代の偉人よって書かれたとされるグリモワールも出回っています。
グリモワールは主に聖職者や学者など、ラテン語を理解する教養のある限られた役職に就いた人々に写本として流布しています。
そのことは、当時、儀式魔術は異端的なものとして神学者から非難される一方、儀式魔術の担い手の多くが聖職者であったことを意味しています。
降霊術を行った罪で告発された聖職者の記録も数多く残されています。
そして、彼らエクソシストの中には、悪魔を呼び出そうとする者もいたのではないかとも指摘されています。
近年
15世紀以降、ヨーロッパでは魔女狩りが行われ、グリモワールを所持することは異端者と判断され、処罰されています。
けれど、異性の愛や富を得るなどの世俗的な目的の魔術は庶民の間で生き残ります。
かつては聖職者や限られた階級の者のためのグリモワールは一般の知識人やカニングマン(占い師や治療師)にも利用される書物となってゆきます。
また、フランスでは「青本」と呼ばれる廉価な書物の中にも通俗的なグリモワールも数多く刊行されています。
主なグリモワール
⚫️『ソロモンの遺訓』(Testament of Solomon)
ソロモンがヤハウェの命を受けたミカエルから魔法の指輪を託され、その指輪を使って悪魔を操り、神殿を建立したという内容が記された最古の文献。
⚫️『アルス・ノトリア』(Ars Notoria、「名高き術」またはArs Notaria、「書記の術」)
刻印術、印形術など12世紀頃のキリスト教文化が生み出したものと考えられています。
この術は神がソロモンに授けた聖なる術と称され、断食や祈りの儀式を行うことで、知恵や記憶力、芸術や哲学の知識の習得などの向上を目的としています。
複数の幾何学図形や記号、聖名、祈祷文などで構成され、文法、修辞学、論証学、医学、音楽、占星術(天文学)、哲学、神学といった分野に精通しています。
⚫️『ピカトリクス』(Picatrix)
『賢者の極み』を意味する魔術と占星術を総説した、元はアラビア語のグリモワール。
「護符魔術の手引書」と言えるもので、占星術、錬金術、魔術に関する内容のものが記述されています。
⚫️天使ラジエルの書(Sefer Raziel HaMalakh/ספר רזיאל המלאך)
中世の実践カバラ(ユダヤ教神秘主義の一派)の魔導書
伝承では天使ラジエルがアダムに授けたものとされ、後にノアがこの書を参考にして方舟を造ったともされています。
内容は天使学、占星術、数秘学など。
⚫️『ホノリウスの誓いの書』(The Sworn Book of Honorius)
『聖なる書』『誓書』とも称され、13世紀テーベのホノリウスが書いたとされる魔道書。
811人の魔術師たちが自分たちの知識を一巻の書物にまとめたという体裁で93の章に綴られています。
悪魔を召喚する方法、煉獄から魂を救い出す方法以外にも多岐にわたる魔術法が記されています。
⚫️ソロモンの大いなる鍵(The Keyof Solomon the King)
ソロモンの名を冠する7冊の断章を基に再構成された、ヨーロッパの古典的魔法書。
実際にソロモンが書き残したものであるのかは定かではありませんが、ソロモンに関係するグリモワールの中で最も広い地域で流布されています。
内容は降霊術のための魔法円、七惑星のペンタクル、祈祷文、魔術道具の作成や清めの作法、魔術を行う日時なども記されています。
⚫️レメゲトン(Lemegeton)「ソロモンの小さき鍵」
主に悪魔や精霊について書かれている17世紀のグリモワール。
悪魔や精霊などの性質や、それらを使役する方法を記したグリモワールのひとつ。
四種または五種からなるソロモン魔術の選集です。
1 『ゴエティア』(Goetia)
『ゴエティア』(Goetia)は、『レメゲトン』の第一書。
ソロモン王が封じ、使役したとされる悪魔たち72柱が記載される悪魔書。ソロモン王が悪魔を使役し名声を得たまでの経緯、悪魔たちの特徴や性質、使役法が記されています。
2 テウルギア・ゴエティア(Theurgia Goetia)
悪魔と天空の精霊の召喚魔術についての書。
3 アルス・パウリナ(Ars Paulina)
黄道十二宮に宿る精霊や十二宮の中の惑星など、星に関する魔術についての書。
4 アルス・アルマデル・サロモニス(Ars Almadel Salomonis)
天の四つの高度と黄道十二宮を支配する大精霊についての書。
5 アルス・ノウァ(Ars Nova)
大天使ミカエルが、稲妻とともにソロモン王に授けたという祈りの書。魔術一般と聖なる知識について記されています。
⚫️『アブラメリンの書』(The Book of Abramelin)
著者は14世紀〜15世紀のアブラハムという魔術師とされます
守護天使と対話してその加護を得る方法、悪魔に使徒となることを誓わせる方法を詳しく説明しています。
⚫️大奥義書(Grand Grimoire)
『大いなる教書』とも称される黒魔術書。
悪魔や精霊などの性質や名称、階級、召喚し使役する方法などが記されています。
『赤い竜』、ハイチでは『真の赤き竜』という名でも知られ、ブードゥー教の実践者に崇拝されています。
⚫️モーセ第六・第七の書(The Sixth and seventh Book of Moses)
18世紀または19世紀の魔術書で、モーセによって書かれたとされ、「モーセ五書」の続編とされるもの。
魔法の呪文と印章、聖書に描かれる奇跡を起こす呪文や、幸運と健康を与える呪文などが記されています。
⚫️『ガルドラボーク』(Galdrabok)
1600年頃のアイスランドの魔術書。47の呪文が記されています。
多くの人が呪術師として処刑され、多数の呪術書が燃やされた17世紀のアイスランドの、唯一現存する呪術書とされます。
悪魔や北欧の神々への祈願、薬草や呪術品の使用法の他にも、出産、頭痛、不眠、疫病、海での苦難や遭難、恐怖、動物を殺す、盗人を発見する、眠らせる、屁を催させる、女性を魅了するなどの方法が記されています。
グリモワール、現代でも悪魔を召喚する、武具・アビリティになる、優れた魔術書
『ファイナルファンタジー11』では「学者」の重要なジョブアビリティのひとつとなっています。
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『仮面ライダーセイバー』のグリモワールはグリモワールワンダーライドブックとして登場。ドゥームズドライバーバックルに装填する事で変身する、仮面ライダーストリウスの基本形態。
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『よんでますよ、アザゼルさん。』のグリモアは召喚・契約方法、能力、基本給、サービス残業の有無など、契約した悪魔の全てが記載されている魔術書。悪魔探偵・芥辺はグリモアを使い、魔界からとんでもなく下品な悪魔・アザゼルを召喚してしまいます。
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「エロイムエッサイム」の呪文を唱えることで有名な『悪魔くん』は1963年から続く水木しげるの代表作の1つ。最新版での「悪魔くん」は埋れ木真吾。『見えない学校』の校長ファウスト博士に救世主として見いだされ、悪魔の召喚方法とソロモンの笛を授けられ、「白悪魔」の12使徒とともに黒悪魔との戦いに挑みます。
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グリモワール まとめ
個人的には「グリモワール」=禁書。映画「薔薇の名前」で観るような、厳格な修道院で保管される禁断の書物をイメージします。
悪魔との取引には魂を与えるというというような代償が伴うのだというような。
けれど、正しく使えば優れた自己啓発本、ですよね、、、、あはっ😅。