日本でもアニメなどで知られるディルムッド・オディナはケルト神話の中のフィン・マックール率いるフィアナ騎士団最強の騎士。
実際でも美しすぎる容姿が原因して非業の死を遂げるヒーローです。
その実像に迫ります。
Fateでも忠義と愛との板挟みで悩むディルムッド・オディナ。
神話の中の生涯、英雄フィン・マックールとの関係とは。
目次
ディルムッド・オディナ、最強の槍兵
ベアトリス・エルヴェリー著『フィオン』
ディルムッド・オディナとは
ディルムッド・オディナ(Diarmuid Ua Duibhne ディルミッド・ウア・ドゥイブネ)はエリン(アイルランドの古称)の英雄フィン・マックールが率いるフィアナ騎士団最強の騎士。
戦場で常に先陣を切り、戦場を駆け巡る無類の健脚の持ち主でもありました。
ゲイ・ジャルグとゲイ・ボウという2本の槍と、モラルタとベガルタという2本の剣を武器とする勇者。
戦闘で3000人以上の敵を一人で倒したとされます。
紀元2世紀〜4世紀、アイルランド神話のフェニアン物語群で語られる半神。
フィアナ騎士団のひとりであり、ゲール人の祖先で死者の神・ドンの子とされます。
父がフィアナから追放されたため、ディアミッドは妖精王オェングス、海神マナナン・マクリルの元で育てられます。
『愛の斑点のディルミッド』としても知られ、妖精から与えられた魔法の黒子(ホクロ)が女性の心を虜にする美貌の持ち主。
その美しすぎる容姿が原因してフィンの婚約者グラニア(グレイン)に慕われ、グラニアに与えられたゲッシュ(誓い・禁忌)のために駆け落ち。
ドンチャド、イオラン、ルクラド、イオルアドという息子をもうけます。
けれど、フィン・マックールに疎まれ、非業の死を遂げています。
その物語はフィアナサイクル『ディルムッドとグレインの追跡』の中で語られています
性格・容姿・能力・特徴
スティーブン・リード作
ディルムッド・オディナのその容姿は際立って美しく、どんな女性でも心をときめかせたという黒い巻き毛の色白で背の高い美男子。
美しいだけでなく、妖精によって贈られた“魔法の黒子”を持ち、出会った女性を虜にしてしまう、「輝く顔」「愛の黒子のディルムッド」という愛称の持ち主。
性格は勇敢で心が広く、高潔。 忠義心と友情に厚く、主君であるフィンや騎士団の仲間達とも深い友情で結ばれ、女性だけでなく同性や年齢を問わず国中で愛されていたといいます。
仲間達からは「最高の戦士」と称えられ、 妖精郷の戦士からも「フィアナ騎士団全員よりディルムッド一人を味方につけたい」という評価を与えられていました。
ほくろの秘密
ある日、ディルムッドと仲間たちは狩猟のために遠くまで行きすぎたことに気づきます。
森の中を彷徨い、老人と少女と猫が住む家に辿り着きます。
老人は彼らを夕食に招待。
その際、一行は雄羊と格闘してその強さを証明しようとしますが雄牛に負かされてしまいます。
雄羊は「世界の力」であり、猫は『死の化身』でした。
一行は床につき。男たちは少女と寝所を共にしようとしますが。「若者の化身」である少女はディルムッド以外の全員を拒絶。
少女はディルムッドにボールセイルスという魔法の印を与えます。
それは、彼を見た女性に抗えない存在になるというものでした。
ディルムッド・オディナの武器
ベアトリス・エルヴェリー
ディルムッド・オディナの武器は4種、二本の槍と二本の剣。
それらは養父であり、ドゥルイドのブラフのアンガスあるいは養父で海神のマナナン・マクリルに与えられたと伝えられています。
⚫︎ゲイ・ジャルグ(ガー・ジャルグ、ガー・ダーグ)
「赤槍」を意味する大きな槍。 どんな魔法も打ち破り、この槍で与えられた傷は回復できない魔槍。
ダーマットは、この槍で、火に燃えず、水に溺れず、武器に傷つかない犬や、ドゥルイドの魔法を使う魔女などを倒したと伝えられています。
⚫︎ゲイ・ボー(ガー・ボー、ガー・ボイ)
「黄槍」を意味する小さい槍。
ゲイ・ジャルグ同様、この槍で傷付けられた者は回復できない魔槍。
戦闘以外では、ゲイ・ボーの穂先に飛び乗るという勇士の技を披露する際に使われました。
⚫︎モラルタ
「大いなる激情」、「大怒」を意味する魔剣。
一太刀で全てを倒す、一撃で人間を両断する威力があるといわれる剣。
⚫︎ベガルタ
「小さな激情」、「小怒」を意味する魔剣。
呪いの猪に用いられ、刀猪の頭蓋骨を叩き潰して猪を倒したとされる剣。
ディルムッド・オディナとグラーニア
ヘンリー・ジャスティス・フォード著『ロマンスの書』 (1902年)
2番目の妻を失って老年になったフィン・マックールは新しく妻を娶ることになり、エリンで最も美しい上王コーマックの娘グラーニアとの婚姻が決まります。
けれど若く美しいグラーアは老いたフィン・マックールとの結婚は喜べずにいました。
そこで祝賀の宴で他の来客を薬で眠らせ、ディルムッド・オディナに自分を連れて逃げるように頼みます。
忠誠心に篤いディルムッドは最初「花嫁の責務を放棄してはならない」と断りますが、ディルムッドに魅了されていたグラーニアはこの拒絶に怒り、「皆の起き出す前に、自分を連れて逃げなければ破滅が訪れる」というゲッシュをディルムッドに与えます。
ふたりの駆け落ちに怒ったフィン・マックールは長い年月、騎士団にふたりを追わせます。
けれどついに、オェングスの仲介もあってフィンはふたりを許し、はれてふたりは夫婦となり、ディルムッドとグラニアは4人の息子に恵まれます。
ディルムッド・オディナの最期
ある日、ディルムッドはベン・ブルベンの山へ狩りに出かけます。
その日、妻からの忠告に従わず長槍・長剣のゲイ・ジャルグとモラルタではなく、短槍・短剣のゲイ・ボーとベガルタを持ち、犬のマック・アン・フィルを連れて出かけます。
そして「ディルムッドを殺す」という呪いをかけられた耳と尾のない大きな魔猪に瀕死の重傷を負わされてしまうことになります。
同行したフィン・マックールは、傷を治す癒しの手をもっているためその手ですくった水を与えれば、ディルムッドの傷を治すことができるのです。
けれど、故意にか、近くにあった泉の水をディルムッドに運ぶまでに2度それをこぼし、3度目には既にディルムッドは亡くなっているのでした。
ディルムッド・オディナはゲッシュと忠義の狭間で愛を選び、長い年月その板挟みに苛まされ続けます。
フィン・マックールと和睦できない間は清い関係を保ち、死に瀕しても誰も恨む事なくそれを受け入れたと伝えられています。
ディルムッド・オディナ、Fateでも人気のランサー
「Fate/Zero」では第四次聖杯戦争において、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトによって召喚された、ランサーのサーヴァント。
ディルムッド自身にもコントロール出来ない、出会った女性を魅了する黒子の力を持て余しています。
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『この素晴らしい世界に祝福を!』のダストは泣き黒子を持った凄腕の槍使い。
主君を裏切り女性を連れて逃避行した元騎士
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『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『ナイツ・オブ・フィアナ』では、ラザル・ディアミッド。
ここではフィンの友であり続けています。
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ディルムッド・オディナ まとめ
出典:deviantart
愛と友情、忠義というものは、なかなか全てが成り立つ結果にはならないもの。
愛を貫けば友情や忠義を失う、ありがちな結末です。
人は身近な存在の幸せを妬ましく思うもの。
まして、婚約者に裏切られて、それを心から祝福できるはずもない。
人は境遇に逆らって何かを得ようとすれば、その代償は払わなければならないようです。
とはいうものの、ディルムッド・オディナの生涯が悲劇であったとは思えない。
妻に愛され、友に慕われ、栄誉を与えられた人生、充分幸せだと思います。