ホラー映画で太古の神に生贄を捧げるなんて場面をよく目にしますが、その捧げられる神として最も相応しいと思われるのがこのイシュタル(イナンナ)。
血と殺戮を好む、戦い、権力を司る女神様です。
聖書の中ではバビロンの大淫婦と蔑まれる、恐ろしーい女神様ですが、愛と美、性を司る魅惑的な神でもあります。
イシュタル(イナンナ)、戦いと豊穣の女神
イシュタル(イナンナ)とは
イシュタル( Ishtar)は古代メソポタミア、バビロニア((イラク南部、ティグリス川とユーフラテス川下流 起源前1900年頃〜1000年)で最も重要視された女神。
シュメール(起源前3800年頃〜3000年)のイナンナ(Inanna)と習合され、カナン(地中海・ヨルダン川・死海一帯)のアスタイト、ギリシアのアフロディーテーと起源を同じくする女神と考えられています。
メソポタミア神話の天空神・アヌあるいは月神・シンの娘で金星を表す天体神。
太陽神シャマシュと冥界の女王・エレシュキガルの妹。
愛と豊穣、戦闘、王権など、多くの神格を持つ神としても知られています。
神々の始祖アヌ・神々の指導者エンリル・水神エアの、シュメール最上位の神々に並ぶ信仰と権限を持ちます。
南メソポタミアのウルクを中心に、メソポタミアのほとんどすべての都市の守護神、あるいはその配偶者として崇拝されたとされます。
王は神より権限をあたえられ、支配が可能になるとされるメソポタミアで、エンリルが安定期、イシュタルが戦乱期を司り、王に王権を授ける神。
『ギルガメシュ叙事詩』『イナンナの歌』『イシュタル(イナンナ)の冥界下り』『エンキとイナンナ』など、最古の楔形文書で最も多くの神話が語られる神。
金星が擬人化された神、シンボルは古くは葦を束ねたもの,後には八芒星。
ライオンを随獣としています。
バビロニアの聖典で、「世界の光」、「万軍を率いる者」、「子宮を開く者」、「正義の判事」、「律法を定める者」、「女神の中の女神」、「力を与える者」、「すべての法令を立案する者」、「勝利の女神」など、さまざまな名で呼ばれる神。
旧約聖書の神への讃美の言葉も、その多くは、イシュタルへのバビロニア人の祈りから生まれたとされます。
イシュタルとイナンナ、その他の神々との習合
アッカド時代(紀元前2334年頃~紀元前2154年頃)、イシュタルはシュメール神話の豊穣神イナンナと習合されて、同一の女神とみなされるようになりました。
シュメールではイナンナ、アッカド、バビロニア、アッシリアではイシュタルとして崇拝されています。
同時期、イナンナと融合したイシュタルは太古のさまざまな神々とも習合されています。
古代の神のリスト「アン・アヌム」(7枚の粘土板)の中にはイナンナと同一視される女神を列挙した「イナンナグループ」というものがありました。
また、後の時代、バビロニアではイシュタルの名は女神の総称として使用されています。
容姿・性格・性別
容姿
イシュタル(イナンナ)は太陽のように輝く、魅力的な肢体の、美しい女神。
多くの神話の中で、宝飾品や衣装をまとう、美しく勇ましいが姿が描かれています。
『イナンナ女神の歌』では「シタとミトゥムという鎚矛を持って生まれ、アプスー(地底にある淡水の海)から得た聖なる力を持ち、南風に乗り、龍のように速く飛ぶ」と記されています。
『イナンナとエビ山』では「額には畏怖の象徴となる「ニ」の聖光、首元は紅玉で飾られ、権威を象徴する王衣をまとい、足首はラピスラズリ。7つ頭の武器「シタ」を勇ましく振りかざす」とあります。
性格
イシュタルは、奔放で、慈悲深く、冷酷という複雑な人格の女神。
多くの神と習合され、その神格がさまざまな側面を内包したと思われます。
けれど、基本的には闘いと欲情に耽る逸楽の女神と認識されます。
愛の女神として崇拝されていますが、結婚や母性は司っていません。
イシュタルは衝動にまかせ振る舞いますが、愛情が冷めた後の扱いは動物であれ人間であれ、酷いものだったと伝えられています。
とりわけ、イシュタルの誘惑を拒んだ者に対する残酷さは凄まじいものであったとか。
その一方で、信者に対しては慈悲深い女神でもありました。
性別
イシュタルは基本的には女神と認識されますが、金星の擬人化であるイシュタルは、明けの明星としての男神、宵の明星としての女神が習合された姿であるとされます。
また、地域によって性別が曖昧な神でもありました。
- カナン(地中海・ヨルダン川・死海一帯)では軍神で金星神のアッタルと結び付くことで男神のような属性
- アッシリア(イラク北部)では顎鬚に弓と矢筒を持った神
- ヒッタイト(古代の西アジア)では男神と同列の法律と戦争を司る神とされています。
家族
家族。親族に関しては幾つもの伝承が伝えられています。
親
主には
アヌ(天空神)とニンガルの娘とされますが、
- シン(ナンナ・スエン)(月神)
- エア(エンキ)(創造・知恵の神)
- エンリル(大気・嵐・大地の神)
の子とする神話も残されています。
兄弟姉妹
双子の兄は太陽神シャマシュ(ウトゥ)、姉は冥界を支配する死の女神エレシュキガル
イナンナと兄のウトゥ(シャマシュ)は非常に親密な関係であったとされます。
対照的に、姉のエレシュキガルとは仲が悪く、「イシュタルの冥界下り」の中では、イシュタルは冥界を手に入れようと降り、エレシュキガルに殺されてしまいます。
配偶者
定まった夫はいない、牧畜の神・ドゥムジッドが夫ともされます。
「冥界下り」の中で、悪魔がイシュタルの代わりに夫のドゥムジッドを冥界に連れ去ることを許しています。
けれど「ドゥムジッドの帰還」では、ドゥムジッドの死を嘆き、一年の半分はドゥムジッドが天国に戻ってイシュタルと過ごせるよう尽力します。
愛人
イシュタルには120人を越える多くの恋人がいたとされます。
けれど、その扱いは残酷で、豊穣祈願のためやイシュタルを讃える儀礼の生贄にされたと伝えられています。
子
子供は戦士の神シャラ、子供はいないともされます。
神格
イナンナ(イシュタル)は多くの神と習合されたことで多様な神格を持つ神となります。
愛と美、戦争、豊穣、官能、生殖、神法、金星、王権。
また、双子の兄弟・ウトゥ(シャマシュ)と共に正義の執行者であり、「エンキとイナンナ」の中で、知恵の神エンキから、すべての基本となる知識・メーを与えられています。
豊穣の女神
イシュタルはイナンナと習合されることで豊穣を司る神となります。
豊穣を示すアシの束がイシュタルのシンボルとされ、古代メソポタミアでは国王がイシュタルの夫となる「聖婚儀礼」が豊穣を願う儀式として行われました。
愛の女神
イシュタルは自らを「慈愛豊かな聖娼」と称しています。
豊穣神イシュタルは多産を司る性の女神であり、同時に120人を越える恋人を有していたとされます。
イシュタルの交わりは疲れを知ることなく繰り返されます。
『イシュタルの冥界下り』の中で、イシュタルが不調(不在)になったことで、繁殖活動が滞り、地上に不毛をもたらしたことが記されています。
戦の女神
イナンナ(イシュタル)は武器を持った姿で描かれることも多く、シュメールの戦いの神の一柱としても崇拝されます。
『イナンナとエビフ山』では戦いに挑むイナンナの姿を「大嵐を呼び、大洪水と強風を起こし、雷鳴の如く吠え、森を罵り、木々を呪い、火を放ち樹木を殺した。」と記されています。
その戦いぶりはイシュタルに勝る戦士はいないと称賛され、戦いそのものが「イナンナの踊り」と呼ばれたとされるほど。
「戦闘と戦役の女君」、「勝利」を意味するイルニナとも呼ばれています。
また、王権の守護女神として「勝敗の予兆」を告げる巫女でもあったとされています。
信仰
イシュタルはウルク、アッカド、バビロン、アルベラなど多くの古代都市で崇拝されます。
そして、サルゴン朝(紀元前2400年頃〜 紀元前2300年頃)以降、イナンナと習合されたイシュタルは、シュメールの神々の中で最も広い地域で崇拝される神となります。
イシュタル(イナンナ)信仰には性的な儀式が伴います。
その中で、王はイシュタルの夫・ドゥムジッドとなって、イナンナ(王権を司る神)となる大祭司と儀式的な交わりを結び、王としての資格を確立します。
ちなみに、アッシリアの王たちはイシュタルに敵対者の力と勇気を奪うよう願い、呪いをかけたとされています。
イシュタルはまた、自由恋愛の守護者として、娼婦達にも崇拝されていました。
イシュタルの神殿には神聖娼婦がおり、勤めを果たします。
男たちは、この巫女との性交儀礼によって、イシュタルと霊的な交わりを結んだとされます。
こうしたイシュタル信仰は後にユダヤ教・キリスト教から敵視され、イシュタル(イナンナ)は「バビロンの大淫婦」と貶められ、西暦1世紀以降衰退していくことになります。
金星の擬人化
イシュタルは、金星が擬人化された神でもありました。
『イシュタルの冥界下り』の中でイシュタルは西に沈んで東に昇る金星と同様に、冥界に降りて再び天に戻っています。
その中で、イシュタルが天を離れクー(冥界)へ向かう、西に沈む様子が描かれています。
シンボル、聖獣
イナンナのシンボルとされる八芒星も金星と関係づけられます。
後期バビロニア時代、イシュタルの奴隷には八芒星の烙印がほどこされました。
また、イシュタル(イナンナ)の聖獣とされるライオンは、古代メソポタミア人にとっての権力の象徴。
アッカドでは、数多くライオン追随する重武装した戦士の姿で描かれています.
鳩もまたイシュタル(イナンナ)の聖鳥とされ、イシュタル(イナンナ)自身が鳩の姿をとることもあるとされています。
聖書で語られるイシュタル(イナンナ)
「列王記下」の中で、イシュタル(イナンナ)は、マナセ王のの時代(紀元前687年 〜紀元前642年)にユダヤに信仰されるようになります。
イナンナの名は聖書には登場していませんが、旧約聖書にはイシュタル(イナンナ)信仰に影響された数多くの物語が含まれています。
🔳『エレミア書』では「天后」「天の女王」、アシュトレト、アナテ、アシュラ、エステルの名で登場。
🔳『ヨハネの黙示録』では、「大いなるバビロンの大淫婦」「淫婦どもの母」と称されています。
🔳『雅歌』『エゼキエル書 』では、聖母マリアの磔刑されるるイエスへの嘆きがイナンナが夫の死を嘆く言葉に似た内容を語っています。
🔳旧約聖書の神への讃美も、その多くはイシュタルへのバビロニア人の祈りが盗用されたもの。
🔳「イナンナとウトゥ」の中で語られる物語。
その中でイナンナは、兄のウトゥに連れられ、性の秘密が明らかになる木の実を食べるためクル(冥界)に行き、その知識を得ています。
これは、禁断の果実と食べたことで知識を得たアダムとイブの物語に引用されたものとされます。
イシュタル(イナンナ)神話
イシュタル(イナンナ)の物語は石板に刻まれた多くの神話で語られています。
その主なものは
『エンキと世界秩序の詩』
エンキは世界の秩序を定めようとイナンナを除く神々にそれぞれの役割を与えます。
イナンナは何の役割も与えられないことにエンキに不平を言います。
そこでエンキは
- 優美な衣装と女性の魅力
- 味方する軍勢に吉兆をもたし、戦いの凶兆を伝える
- 必要のないものを滅亡させ、必要のないものを創造する
などの能力を与えます。
「イナンナとフルップの木」
イナンナは、ユーフラテス川の岸辺でフルップの木(生命の木とされる世界樹)をみつけます。
その木を成長させ玉座を彫ることを思いつき、その木を持ち帰り、ウルクの庭(聖なる園)で育てます。
木は成長してゆきますが、蛇、アンズー(鳥)、リリトゥ(リリス)が住み着いてしまいます。
そこで、イナンナは兄弟のギルガメッシュ(ウトゥ)に助けを求めます。
ギルガメッシュ(ウトゥ)は蛇を倒し、アンズーとリリトゥ(リリス)は逃げてゆきました。
ギルガメッシュ(ウトゥ)と仲間たちはその木を切り、イナンナのためにベッドと玉座を作りました。
イナンナはそれを喜び、お礼にその木でピックとミク(輪と棒)を作り、ギルガメッシュ(ウトゥ)に贈りました。
「エンキとイナンナ」
人間に知恵を授けた創造神・エンキは、イナンナに饗宴のもてなしを受けた際、イナンナを酔わせ誘惑しようとしますが、エンキ自身が酔ってしまいます。
そして、イナンナに全ての知識である「メー」を与えてしまいます。
次の朝、召使のイシムードに「メー」のありかをたずね、そのとき初めてメーを失ったことに気づきます。
彼はあわてて、メーを取り戻すためガラの悪魔(神の爪の汚物から作られた性別のない存在)をイナンナの元におくります。
けれど、イナンナはその追跡から逃がれ、ウルクの川岸に無事辿り着きます。
この物語は「メー」を手に入れることによって、イナンナが主神としての地位を得たことと、首都としての権威がエンキの都市エリドゥからイナンナの都市ウルクへ移行したことを示唆したものと考えられています。
『イナンナは農夫を好む』
双子の兄ウトゥは妹のイナンナに、結婚の時期が来たことを告げます。
その頃、農夫のエンキムドゥと羊飼いのドゥムジッドがイナンナに求婚。
イナンナは農夫のエンキムドゥを好みます。
けれどウトゥはイナンナに「夫としてはドゥムジドが適している。農夫が与える贈り物の、羊飼いはそれ以上のものを与えることができる」と説得。
そうして、イナンナは羊飼いのドゥムジッドと結婚。
ちなみに、神の恩恵を求めて争う農夫と羊飼い、そして、神が最終的に羊飼いを選ぶという内容は聖書の「カインとアベル」の物語に引用されたものという説があります。
「イナンナの冥界下り」
冥界で「ガラ」の悪魔に拷問を受けているドゥムジッド
『イナンナの冥界下り』は紀元前4000年紀後半、ウルク時代の楔形文字で記された、実存が証明された人類最古の神話。
この『冥界下り』はシュメール語版の『イナンナ』とアッカド語版の『イシュタル』の2つの物語が伝えられています。
それに追随するいくつかの物語もあり、「イナンナとシュカレトゥダ」などの、他の物語の中でも言及されています。
この物語は、聖劇として当時のイシュタル(イナンナ)信仰に不可欠なものとされていました。
劇は3日行われ、最終日のイシュタル(イナンナ)の夫が復活する「歓喜の日」地上の王はイシュタル(イナンナ)との交合の儀礼としての聖婚を行い、新しい新年が始まりました。
シュメール版『イナンナの冥界下り』
イナンナの姉・女神エレシュキガルによって統治されるクル(冥界)は地下深くにある暗くて陰惨な大洞窟。
特別に許された者以外、そこに入った者は決して出ることのできない地。
イナンナはその冥界に向かう前、従者のニンシュブルに3日経っても戻らない時はエンリル、アン、ナンナ、エンキの神々に、助けを求めるよう指示。
ターバン、かつら、ラピスラズリのネックレス、胸当て、衣装「パラドレス」、マスカラ、金の指輪、ラピスラズリの物差し、メーを示す装いで身を固めます。
イナンナは冥界の門の前で、門番のネティに姉エレシュキガルの夫・グガランナの葬儀に参列するために来たと告げます。
その訪問にエレシュキガルは門番に「冥界の七つの門を全て閉じ、1つの門を開けるたびイナンナの衣服を脱がせ」と命じます。
まず、ラピスラズリの物差し、そして7つの門を通過するたび身につけていた宝飾を取り、イナンナの力は奪われていきました。
姉の前にたどりつく際には、イナンナは全ての衣装が奪われてしまっていました。
イナンナは姉のエレシュキガル代わりに王座に座します。
そこで
アンナ(神々)の7人の裁判官は
死のような表情で彼女を見て
怒りのスピーチをもって彼女に話しかけ
重い罪による叫びを彼女になげかけました。
苦しんだ女神は死体と化し
その遺体はかぎに吊されました。
イナンナが戻らないまま3日が経ち、従者・ニンシュブルはイナンナの指示に従って神々にイナンナの救出を懇願。
けれど最初の三柱の神々は、イナンナの責任としてそれを拒否。
最後に向かったエンキがイナンナの救出に尽力します。
彼は、2本の指の爪の中の土から、ガラ・トゥラとクル・ジャラという、性別のない2人の人間を造ります。
そして、エレシュキガルの望むものとイナンナの遺体を交換し、遺体に生命の食物と水をふりかけるように指示。
エレシュキガルは二人の使者に会い、出産する女性のように苦しみます。
使者に遺体を諦めるなら彼らが望むものは何でも与えると提言しますが、彼らはそれを拒否、イナンナの死体を求めます。
そして、使者はイナンナの遺体に生命の食物と水をふりかけ、彼女を生き返らせます。
このシュメール版は『ドゥムジッドの死』の物語と結びつけられています。
『ドゥムジッドの死』
ガラの悪魔たちは、イナンナの代わりとなる他の誰かを冥界に連れていかなければなりません。
最初に彼らはイナンナの従者・ニンシュブルをあげますが、イナンナはニンシュブルがイナンナを正しく弔っていたとそれを拒否。
次にイナンナの美容師シャラ、けれどシャラはまだ喪に服しており、イナンナは彼も彼女の死を悼んでいたそれを拒否。
三人目も同じく喪に服していたルラル。
これもイナンナが拒否。
最後がイナンナの夫であるドゥムジッド。
彼はイナンナの死を悼んでいた他の人々とは対照的に、奴隷少女たちにもてなされていました。
それを知ったイナンナは彼を連れて行くべきだ主張。
ガラの悪魔はドゥムジッドを冥界に連れ去ります。
この後『ドゥムジの夢』ではガラの悪魔に囚われようとするドゥムジッドがそれを逃れようと試み、太陽神ウトゥに助けられます。
『ドゥムジッドの帰還』
ドゥムジッドの妹ゲシュティナンナ、ドゥムジドの母親・サートゥール、心変わりしたイナンナがドゥムジッドの死を嘆き続けます。
そんなイナンナにハエが夫の居場所を知らせます。
イナンナと妹・ゲシュティナンナはそこで彼と再会。
これよりドゥムジッドは一年の半分、残りの半分は妹のゲシュティナンナが代わりに冥界で過ごし、その間ドゥムジッドは天界でイナンナと過ごすことになります。
アッカド版『イシュタルの冥界下り』
冥界の門に着いたイシュタルは、門番に「門を開けてくれないのなら、かんぬきを粉砕し、扉を叩き壊し、生者の数を上回るほどの生者の肉をむさぼる死者をよみがえらせる。」と脅します。
エレシュキガルは「古来の儀式に従って彼女を扱う」よう門番に命じます。
門番は冥界の門を開けるたびイシュタルの衣服を一着ずつ脱がせます。
最後の第七の門をくぐるイシュタルは裸となり激怒しますが、エレシュキガルは従者ナムタルにイシュタルを投獄し、60の病気を引き起こすよう命じます。
イシュタルが冥界に降った後、地上ではすべての性活動が停止し、生命の誕生が滞ります。
イシュタルの従者であるアッカドの神パプスッカルは、知恵の神・エアにそれを報告。
エアは両性具有種の「アス・シュ・ナミール」を造り、冥界に送り、イシュタルに「偉大な神の名」を呼び、命の水が入った袋を求めるように告げます。
アス・シュ・ナミールは命の水をイシュタルに振りかけ生き返らせます。
その後、イシュタルは7つの門を通り、衣服を1つずつ取り返し、元どおりの状態で生還。
けれどその身代わりとして、夫のドゥムジッドを冥界に戻さなければなりません。
そこで、ドゥムジッドの妹のベリリも身代わりとなり、交代で冥界に入ることになりました。
ギルガメシュ叙事詩
フンババを倒してウルクに戻ったギルガメシュにイシュタルが求婚。
けれど、ギルガメシュはイシュタルの愛人たちの不幸な境遇を理由にそれを拒みます。
イシュタルが愛していたライラックニシブッポウソウの翼を殴って折ったこと。
イシュタルのために子供たちを殺し、イシュタルに尽くした羊飼いを殴ってっ狼に変え、辱めていることことなどを例に挙げました。
怒り狂うイシュタルは父アヌにそれを告げます。
そして、天の牡牛(グガランナ)を与えるよう要求。
「もしグガランナを与えられなければ、私は地獄の扉を打ち砕く。死者をよみがえらせ、生者の肉を貪らせる。死者の数は生者を超えることになる」と脅します。
アヌは仕方なくイシュタルにグガランナを与えます。
グガランナを連れて降りた地上は、地面が割れ、川は干上がり、牡牛は暴れ多くの命を奪います。
イシュタルはギルガメッシュにその牡牛を送り、ギルガメッシュとエンキドゥにしかけます。
けれどギルガメッシュは雄牛を殺し、その心臓を太陽神シャマシュに捧げました。
エンキドゥは牡牛の右太ももを引きちぎってイシュタルの顔に投げつけ「できるなら、あなたの内臓をその脇腹に打ち付けたいものだ」と言い放ちます。
イシュタルはその敗退にギルガメッシュを呪い、女神に従う娼婦たちに牡牛の弔いを命じます。
イシュタル(イナンナ)、現代でも美形戦士
『血の饗宴』1963年公開、スプラッターホラーの巨匠・ハーシェル・ゴードン監督作品。
イシュタル(エジプトの神)の信者ファードがイシュタル復活を願い、若い女性の生贄をささげてゆきます。
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『Fate/Grand Order』のイシュタルはメソポタミアをマアンナで飛び回るアーチャークラスのサーヴァント。
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『女神転生シリーズ』のイシュタルは「地母神」種族の悪魔。
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『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』のイシュタルはオラリオの歓楽街にある娼館ファミリア【イシュタル・ファミリア】の主神
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イシュタル(イナンナ) まとめ
イシュタル(イナンナ)はまさに悪魔より残忍な女神。
美と力、権力を持ち、好みの男を総取りし、飽きたら殺してその血を楽しむか、動物にしてオモチャにする。
ここまで徹底したら、かっこいい。
悪女って、悪って、確信犯にとっては覚悟をもった生き様に思います。
それに、神様ですものね。
人間の尺度では計れません。