春から夏にかけて現れるにわか雨の前触れの入道雲。
なにげに使っていますが、思えばなぜその名がついたのか?
入道とは出家して仏門に入る人、またはお坊さんをいいます。
入道雲の語源になったのは、日本古来からの妖怪・大入道に由来しています。
なので、その大入道のご紹介です。
全国各地で伝えられるお坊さん妖怪、大入道とは
大入道、意外なその実態
大入道とは
大入道は巨大な僧の姿をした妖怪。
入道とは出家して仏門に入った人、あるいは坊主頭の人をいいます。
そんな大男の入道の妖怪を指して大入道といいますが、日本各地にその伝承はさまざまに今に伝えられています。
僧の姿をしていていてもその風貌もさまざまです。
- 実態のない巨大な影
- 単に巨大な妖怪
- 目がひとつ、あるいは3つ目
その大入道の中でも、単に坊主頭のものは大坊主とも呼ばれます。
その正体についても
- キツネ・タヌキ・イタチ・カワウソが化けたもの
- 山の神
- 遺恨を残した亡霊
など
大きさも2m程度の人間より少し大きなものから、見上げるほどに大きなものまで。
性格もさまざま
- 人間に好意的で人助けをするもの
- 人を驚かせる
- 見た者を病にしてしまう
など。
入道雲
ちなみに春から夏にかけて、にわか雨の前触れなどに現れる入道雲は雷雲(かみなりぐも)とも呼ばれる積乱雲(せきらんうん)。
もこもこと膨らんで現れる様が大入道に見えるためについた俗称です。
大坊主
大入道の中で坊主頭の僧は大坊主と呼ばれます。
各地の民俗資料や古書なで伝えられる妖怪。
性格は特に悪さをするものではなく、その正体は、江戸時代、寺院の腐敗・堕落が進み、庶民が抱いた僧に対する悪感情から生まれた妖怪ともされています。
様々に伝えられる大入道
文献で伝えられる大入道
🔳 『月堂見聞集』江戸時代の見聞録
その中に「伊吹山異事」という記載があります。
ある秋の夜、滋賀県伊吹山の麓に大雨が降り、大地に大きな震えがおこります。
間もなく大入道が松明の灯火を体に灯して進んで行き、その足音が周辺に響き渡りました。
翌朝、明神湖から伊吹山の山頂まで続く道に焼け跡が残っていました。
なぜ現れたのかについては不明。
🔳「西播怪談実記」江戸時代の怪談集
🔸延宝の時代(1673年〜1681年)、播磨国(兵庫県)の猟師が犬を伴い山奥で狩をしていました。ふと気付くと、自分を睨み付けている山伏姿の大入道がいました。
その姿は山を跨ぐほどの巨大な妖怪であったといいます。
すぐに大入道はいなくなりましたが、人々は、大入道は殺生を戒める山の神の化身であったのだろうと噂したということです。
🔸元禄 の時代(1688年から1704年)同地で鍛冶屋平四郎という者が、山奥の川に漁にでかけた時のこと。
気づくと、人間の3倍以上の大きさの大入道が川上で網の一方を引っ張っています。
平四郎は脅えず、しばらく縄を引き合ったといいます。
伝承に残る大入道
🔳三重県 四日市市
毎年10月に催される諏訪神社の「四日市祭」は大入道山車で知られる祭礼。
現在では息子の「こにゅうどうくん」も市のシンボルキャラとなって活躍しています。
大入道の伝承
🔸 ある醤油屋の蔵に老いたタヌキが住み着いていました。
タヌキは農作物を荒らし、大入道に化けて人を脅かす悪さをし、人々を困らせていました。
そこで、皆は大入道の人形を作ってそのタヌキを追い出そうとします。
ところがタヌキはその人形よりさらに大きな大入道に化けて対抗。
そこで人々は、首が伸び縮みする人形を作ってタヌキと対決。
首を長く伸ばしした大入道に驚いたタヌキは逃げ去って行きました。
🔸 同じ四日市市に呉服商を営む久六という者がいました。
ある日、身の丈六尺ほどもある大男が店で使って欲しいと訪ねてきます。
久六は、若い大男の熱心さにほだされ雇い入れます。
大男の商いぶりは評判が良く、しばらくすると久六の店に来る客が増え、店は町でも評判の大店に成長しました。
ある晩、久六が大男の部屋を通ると、その首が伸びて行灯の油を舐めている大男の姿が障子越しに見えました。
驚いた久六は気を失い、翌日目が覚めると男はいなくなっていたということです。
🔳 宮城県 仙台市荒巻伊勢堂山の坂道
仙台城下、荒巻伊勢堂山の坂道は、巨岩・奇石が起伏した気味の悪い場所として知られていました。
その大岩のひとつが、毎夜、唸り声をあげるといいます。
その岩は叩くと唸り声がさらに大きくなり、ついには大入道となって雲をも突ん裂く金切り声をあげるので、その恐ろしさに退治に行く者もいなくなってしまいます。
この奇変は藩主・伊達政宗の耳にも届きます。
政宗が自ら坂を訪れると、そこに見上げるほどの大入道が現れます。
政宗は恐れることなく矢を放ちます。
すると、物凄い叫び声とともに大入道は姿を消してしまいます。
その後、辺りを捜索したところ、矢で射抜かれたカワウソが苦しんでいました。
以来この坂は「唸り坂」と呼ばれます。
🔳 岩手県 紫波郡に伝わる口碑・鳥虫木石伝「鼬の怪」
紫波郡(現・矢巾町)の高伝寺では、毎夜、本堂に怪火が燃え、恐ろしい大入道が現れるので、寺は檀家の人々に夜番を行ってもらうことにしました。
すると、ある朝、イタチが本堂から抜け出していった足跡がありました。
後を追ってイタチの巣を見つけ、巣の中にいた古イタチを捕らえて退治。
その夜から怪火も大入道も現れなくなったということです。
🔳 北海道 支笏湖畔・不風死岳(ふっぷしだけ)
嘉永の時代(1848年〜1855年)、近辺にあるアイヌ集落に大入道が出現。
その巨大な目玉で睨みつけられると、恐怖で卒倒してしまうといういわれました。
🔳 富山県
黒部峡谷周辺の鐘釣温泉に16体もの大入道が現れ、湯治客たちを驚かせたといいます。
その大入道の身長は5丈〜6丈(約15〜18メートル)、七色の美しい後光が差していたとされています。
🔳 東京都 赤羽駅周辺八幡神社踏切
第二次世界大戦下の昭和12年(1937年)。
赤紙を届けに行った人が兵士姿の大入道に襲われ、4日後にその場所で変死。
大入道の正体は自殺した新兵、あるいは上官に撲殺された兵士の亡霊と噂されました。
🔳 兵庫県
宮脇から須磨田へと行く途中、満月になると大入道が出てくると恐れられていた石割場と忠兵衛薮がありました。
ある夜、大工の棟梁が石割場で三つ目の大入道と出会います。
棟梁は恐れず、大入道にたばこの煙を吹きかけると、大入道はみるみるしぼんで、元の古タヌキに戻って、忠兵衛薮の中に逃げ込んでしまいました。
🔳 徳島県
阿波国名西郡高川原村字城(現・名西郡石井町)では、小川の水車に米などを置いておくと、大入道が現れ、それを搗いておいてくれるといわれていました。
🔳 熊本県
下益城郡豊野村(現・宇城市)に「今にも坂」という坂があります。
昔、ここには大入道が現れて通行人を驚かせるといわれていました。
その話をしながらこの坂を通ると「今にも」という声がして、大入道が現れるといいます。
大入道、現代では立派に強面の悪役
人気ゲーム『仁王」シリーズの大入道は戒律を破った入道の成れの果て。 殺した人間のしゃれこうべを袈裟懸けに着けている、僧の姿をした巨漢の妖怪。
ーーーーーーーーーー
ソーシャルゲーム『対魔忍RPG』の大入道はネットに蓄積されたネガティブなエネルギーが実体化した3巨大な怪物。
ーーーーーーーーーー
大入道 まとめ
大入道のほとんど古狐や古狸が化けたもののようで、人に悪さをする類ではなさそう。
昔はキツネやタヌキも住みやすく長生きできたのでしょう。
大入道妖怪も、今は昔の、古き良き時代の産物なような気もします。