出典:deviantart
アポフィス(アポピス)はエジプト神話で語られる冥界の大蛇。
ラーの船の運航を妨げ、死者の魂を喰らう悪神です。
時としてラーの船を飲みこむ姿が月食となり、夕焼け・朝焼けはアポフィスが倒されたことを物語っているのだとか。
そこでアポフィス(アポピス)の、エジプト人を震撼させるその存在と、毎夜繰り広げられる壮絶な戦いに注目です💦
目次
アポフィス(アポピス)、夜毎太陽神・ラーとの死闘を繰り返す混沌の王
エジプト博物館所蔵『 蛇アポフィスを槍で突くセット 』
アポフィス(アポピス)とは
アポフィス、 アポピス (Apophis)(古代ギリシャ語)は、エジプト神話の悪神。
古代エジプト語でアペプ(Apep)。
太陽神・ラーと秩序と真実の神・マアトに敵対する、闇と無秩序、混沌を体現する冥界の神。
光をもたらすラーの宿敵であるところから「ラーの敵」「混沌の主」という称号が与えられています。
その姿は、古代エジプト人にとって最も畏怖される存在である巨大な蛇。
体長は16ヤード(約15m)、あるいは50キュビット(約26m)とも伝えられます、
火打ち石でできた頭部を持つ、とぐろを巻いた巨体で、ラーの運航を妨げ、冥界を訪れる死者の霊を喰らいます。
そのため毎夜、ラーの太陽の船をセトたち神々が守り、アポフィスとの死闘を繰り広げます。
また、小惑星「アポフィス」の名の由来となったことでも知られています。
誕生
アポピスはナカダI期(紀元前4000-3550年頃)にはその存在が確認される原初の神。
その出生についてはいくつかの説があります。
一般的には、
⚫︎ アポフィスは世界が誕生する以前から太古の混沌の海・ヌンに存在していたとされます。
また、
⚫︎ ラーのヘソの緒から生まれた
⚫︎ 創世神話で原初の水が擬人化された存在ともされる狩猟の女神・ネイトがヌンに唾を吐き、その唾液が120ヤードにも及ぶ蛇になった
とも伝えられています。
アポフィスの所業と人の抵抗
闇と無秩序を体現する悪神・アポピスの所業は、世界を秩序が定まる以前の混沌に戻そうとするものだと考えられています。
いくつかの神話で、アポフィスが冥界に閉じ込められたのは、かつてアポフィスは主神だったのがラーに倒されたためか、邪悪であったために冥界に投獄されたのだと語られています。
そのために、夜毎、世界に秩序をもたらし我が身を倒した宿敵ラーの舟を襲撃し続けます。
また、アポフィスは人間に災厄をもたらす存在であり、冥界に入る魂を喰らう者ともされていました。
そのため、死者はアポフィスを撃退するための呪文とともに埋葬されることもあったとされます。
新王国時代(紀元前1550年頃〜紀元前50年頃)にはアポフィスを退ける儀礼呪術の集大成として「アペピの書」が編纂。
毎年司祭たちはアポフィスの像にすべての悪と闇を封じ込め、それを燃やし、一年の間人々をアポフィスの悪から守る「アポフィス打倒の儀式」が行われていました。
新王国時代(紀元前1550年頃〜紀元前50年頃)に書かれた『死者の書』(パピルスに書かれた古代エジプトの葬祭文書)にもアポピスから身を守る方法が描かれていたとされます。
ラーとの戦い
アポフィスとアトゥム(ラー)、(紀元前1290年頃)ラムセス1世の墓
新王国時代の文献にはアポフィスとラーの戦いの物語が詳しく語られています。
世界の始まりにアポフィスは地平線の下に横たわり、いつしか冥界の一部となります。
アポフィスは太陽が沈む西方のマヌという山、あるいは夜明け直前の第10の領域(冥界(ドゥアト)の中)に潜んででラーを待ち受けます。
世界を混沌に戻すため、夜ごとに冥界を旅するラーの太陽の舟を襲撃。
棺に刻まれた文書には、アポフィスが魔法の視線でてラーとその側近を圧倒したと記されています。
アポフィスの咆哮は冥界を震撼させるほど恐ろしく、その動きは地震を引き起こします。
冥界に流れる川の水を飲み干しラーの船を座礁させ、〝砂州”と呼ばれるとぐろで船に襲いかかります。
夕焼けや朝焼けはアポフィスがラーに倒されたため。
時にはアポフィスが太陽の舟を飲み込み、日食が起こります。
これに対するラーは、共に旅する守護神たちの助けも得て応戦。
特に破壊神・セトとの戦いは雷雨の起源であるともされます。
セトは太陽の舟の舳先に立ち、アポフィスを迎え撃つ重要な存在。
他の神々がアポフィスの凝視で無力化される中、セトだけは耐え残ってセトの武器・ウアスの一撃でアポフィスを撃退。
けれど時代が下ると、セトはアポフィスと同じ属性を持つところから両神は同一視されてゆきます。
その他の物語
インヘル・カーの墓に刻まれた壁画
⚫︎「死者の書」(新王国時代(紀元前1550年頃〜紀元前50年頃の書)の中では
太陽を象徴するシカモア(エジプトいちじく)の木の下でとぐろを巻くアポフィスを大いなる雄猫の姿のラーが倒す物語が語られています。
冥界の悪神であるアポフィスはその他の冥界を訪れる神々や死者にとっても敵対する存在。
⚫︎「門の書」(エジプト中王国( 紀元前2040年頃-紀元前18世紀頃)に記された、死者が冥界の12の門を通過する際に必要な呪文や祈りが記された葬礼文書の一つ)の中で
戦いの女神・ネイトや冥界の王・オシリスの妻・イシスに網に捕らえられ身体を切り刻まれているアポフィスが語られています。
その他、
⚫︎「棺の書」(第1中間期(紀元前22世紀頃)以降に、棺(コフィン)に直接刻まれた葬送文書)や
⚫︎「下界(アム・デュアト)の書」(第18王朝(紀元前1550-1295年頃)にまとめられた呪文集)など、
多くの物語の中でアポフィスとの終わりのない戦いが描かれています。
アポフィス(アポピス) まとめ
フネフェルのパピルス. (紀元前 1275年頃)
アポフィスは新たな生を受けるはずの死者の魂を喰らい、太陽が登らない世界を造ろうとする、なんとも恐ろしい存在です。
ホラー界にもハルマゲドンを目論む多くのやからがいますが、アポフィスは間違いなくそんなやからのラスボス。
毎夜それを倒すラーやセトがたまらなく頼もしく思えます。