「重陽の節句」(菊の節句)、上巳の節句(桃の節句)や端午の節句(菖蒲の節句)に比べると、なんとなく意識せずに過ぎてしまいそうな、イマイチ印象が薄い感があります。
けれど、元は五節句の中でも最も重要な節句とされた催しです。
そこで、「重陽の節句」について再認識したいと思います。
「菊づくし」な催事「重陽の節句」、意外に風情があって楽しめる催し事かも♪
重陽の節句とは
重陽の節句は奈良時代、中国から伝来したとされる五節句のひとつ。
『節句』とは季節を分ける節目をいいます。
中国には陰陽思想(いんようしそう)」というものがあります。
森羅万象、すべての事物を陰(いん)と陽(よう)に分類する思想で、奇数は陽の数、偶数は陰の数とされます。
その中で、奇数で最も大きな数9は、陽の最も強い数。
9月9日は、「強い陽の数字が重なる」ということで「重陽の節句」と呼ばれるようになりました。
かつては陽が重なることで「陽が強すぎる」ということから、不吉なことや邪気を払うために行われるようになった行事でした。それが後に、陽が重なるのは「吉」という考えに変わり、長寿と収穫を祝う行事と変わってゆきます。
重陽の節句の由来
「9」は一桁の数字で最も大きい「陽」の数。
かつては最も強い陽数の9が重なる9月9日は、五節句のなかでもっとも重要な節句とされていました。
古代中国での「重陽の節句」は、2〜3日も続いた盛大なものだったともいわれています。
《 菊は邪気を祓う高貴な花 》
他の花に比べて花期も長い菊は、古来中国では薬草としても用いられ、延寿の力が宿ると考えられていました。
中国には菊のおかげで少年のまま700年も生きたという「菊慈童(きくじどう)」伝説があります。
「菊慈童」伝説
中国の周という国の国王には「慈童」という召し使いがいました。
ある日、慈童は掃除中に国王の枕をまたいでしまいます。そのため慈童は山奥に追放。
不憫に思った国王は、釈迦から賜った観音経の一部を授けます。
慈童は国王から賜った経文を菊の葉に記します。
雨が降り、その菊の葉に落ちた雨露が長寿を授ける霊薬となり、「慈童」は700歳という長寿を授かったと伝えられています。
《 中国での重陽の節句 》
当時の中国では、霊力の宿る菊の花を浮かべた菊酒を飲むことで、邪気を払い、長寿を願いました。
旧暦の9月9日は中国でも薬用に栽培されていた菊が咲く季節。
その菊の薬効も取り入れられ、不老長寿、五穀豊穣、無病息災、子孫繁栄を願い催されます。
《 日本での重陽の節句 》
中国から伝わった風習は、平安時代には宮中行事として「重陽の節会(ちょうようのせちえ)」が行われるようになります。
中国から伝来した珍しい菊を眺めながら、詩を詠み、「菊酒」を飲む華やかな「菊花の宴」。
また、この「重陽の節句」では着せ綿(きせわた)や茱萸嚢(しゅゆのう)などで邪気を払って長寿を願います。
これが民間にも広がり、江戸時代に五節句のひとつとなります。
庶民の間では「お九日(くんち)」と呼ばれ、秋の収穫祭と合わせて祝うようになります。
新暦の10月に開催される「長崎くんち」「唐津くんち」はその名残の行事です。
「重陽の節句」の楽しみ方
9月9日の「重陽の節句」は菊の節句であるのと同時に「栗の節句」とも呼ばれ、秋の収穫を祝う催しでもあります。
重陽の節句の料理
「菊の節句」である重陽の節句にはやはり、菊酒や菊茶。
「重陽の節句」は「栗の節句」とも呼ばれ、栗ご飯やお餅をついて秋の収穫を祝います。また、古くから「9日に茄子を食べると中風(ちゅうふう)にかからない」という言い伝えもあります。
菊酒や、栗ご飯、秋茄子を美味しく頂きながら、厄を払い、不老長寿を願い、五穀豊穣を祝います。
** 菊酒 **
出典:madoakari
古来から行われている重陽の節句の楽しみ方に、菊酒があります。菊花酒は中国では神仙の飲み物」でもありました
菊酒とは、蒸した菊の花を冷酒に一晩漬け込んだもの。簡単なところでは、食用菊の花びらを酒に浮かべるだけでもいにしえの風情が楽しめます。
9月9日に菊酒を飲むと長寿になるともいわれます。
** 菊茶 **
出典:hokoen
中国茶のひとつ。菊花茶として市販されています。お湯350ccに、乾燥した菊の花4個ほど入れて2分ほど蒸らして抽出します。菊の香りと湯に開く菊の花びらが美しく、香りや味、視覚でも楽しめるお茶
** 栗ご飯 **
重陽の節句は、栗ごはんを食べるところから「栗の節句」とも呼ばれています。
栗ご飯が重陽の節句で食べられるようになったのは、江戸時代から。
秋の収穫祭でもある「重陽の節句」に、秋の味覚の代表である栗を使った栗ご飯を食べ、その年の収穫を祝います。
** 秋茄子 **
重陽の節句のメニューとして秋茄子の煮浸しや焼き茄子などが人気です。
昔から庶民の間で「おくんちに茄子を食べると中風にならない」という言い伝えがあります
「重陽の節句」の慣し
《 着せ綿(被綿・きせわた) 》
前の晩に菊に綿を被せておき、九日の朝、夜露と香りのしみこんだ綿で体を清めます。不老長寿を願う「被せ綿」(きせわた)は、重陽の節供を象徴する行事。
菊の露で体を清めることで菊の霊力に加護され、若返ることができるという言い伝えも残されているとか
《 茱萸嚢(しゅゆのう)》
茱萸嚢とは、呉茱萸(ごしゅゆ)(中国の植物)の実を緋色の袋に入れたもの。厄よけの効果があるとされ、身につけたり、室内を飾ります。
《 菊湯 》
湯船に菊の花を浮かべます。菊に含まれるカフェインなどの成分が、血行を促進し保湿性を高めます。体を清めるとともに、疲労回復効果も期待できるオススメの「重陽の節句」の楽しみ方のひとつです。
《 菊枕 》
菊を詰めた枕で眠り、菊の香りで邪気を祓います。乾燥させた菊の花びら布袋に入れて枕の上に乗せて寝るのはいかがでしょう。
菊枕で眠ることで、邪気から身を守るという願いが込められています。
《 菊合わせ 》
菊を持ち寄って優劣を競います。今でいう菊のコンクール。
「重陽の節句」 まとめ
「重陽の節句」は他の節句のように費用も、準備の手間もさほどかからない、けれどしっかり効果が期待できそうな、なかなか嬉しい催しのようです。
菊酒でほろ酔い、栗ご飯と秋茄子をたっぷり食べて、菊湯でゆったり、菊枕でグッスリ、で、厄払いと不老長寿祈願もできる、これは、もう、参加するっきゃない!、催事ですっ♪